たい積場管理

国内のたい積場の多くはその役目を終え、現在は最終鉱業権者(企業)、義務者不存在の場合は行政(国・地方自治体)が、操業(鉱さいの堆積)を伴わないたい積場の維持管理を行っています。操業を伴わないことは、即ち、収入を得ることのない状況で維持管理を行っていることになります。
従って、維持管理に極力費用を掛けない(掛けられない)方針になることは、ある意味当然の流れであると言えます。
一方で、たい積場を安全安心に維持していくためには、組織内において、維持管理者と最終責任者との間で、現状のリスクを明確にした正しい情報共有が必要不可欠であると考えています。

正しい情報共有のためには、定期的な点検や診断が必要となります。
例えば、人間の健康管理では定期的に人間ドックの検査を行い、改善が必要な場合は医師と相談して生活改善や投薬などで重篤化の予防を行い、それでも体調が悪化したら症状に合わせて必要な治療を行います。発症前に検査して予防することがとても大切です。
たい積場も同様に定期的な健康診断を行い、医師(専門家)と相談しながら必要な予防を行うことで安全安心が確保されると考えています。

これまで、たい積場の維持管理は、お金がないから目を瞑る的な企業の事情が優先されたこともあったかと思いますが、CSR(企業の社会的責任)が定着した昨今、必要な対策を講じることは避けては通れないことと感じています。

維持管理全般に言えることですが、たい積場の設計や施工に問題がなくても、その後の維持管理が不十分であったために、たい積場が被災するリスクは今後も存在し続けます。そのためにも維持管理者は、設計思想や建設過程の理解を深めて、たい積場全体を俯瞰できるようになると、その管理の質は格段に向上します。
更には、万一、たい積場のかん止堤が崩壊して、堆積物が流出した場合の地域に及ぼす影響を知っておくことも貴重な知見となります。
近年の大きな地震や異常な降雨を経験すると、自然に対して謙虚に対応することが如何に大切であるか、想定されるリスクを組織内で共有することが如何に必要であるか、そして地域の方々と長年構築された信頼関係を損なわぬよう、安全安心を念頭に置いた予防措置が重要であることを実感しています。

以下、たい積場のリスクについて、《地震》《降雨》《環境》の3項目に分けて明記しています。

《地震》

近年、地震は全国各地で発生しており、何処の地域だから地震の影響は少ないなどと言えない状況になっています。プレート地震以外にも活断層地震も熊本や能登半島で記憶に鮮明です。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、3つのたい積場が崩壊しました。
原因は、当時の国の基準は遵守されていたものの、それを遙かに超える大きな地震動であったための被災であり、その後、法律は地震動を大きくしたものに改正されました。(内盛式に限る)
改正に伴って対策が必要となったたい積場は、全国で逐次対策工事が実施されておりますが、まだ対策工事が終っていないたい積場があると認識しており、その対策が急がれています。

たい積場毎に想定される地震がいつ発生するか、来年か5年後か100年後か、誰にもわかりません。
故に、対策の緊急性にも温度差があるのも現実です。
しかし、地震によってたい積場のかん止堤が崩壊すると、堆積物が流体となって下流に流出するため、地域住民の方々の生命を脅かし、家や道路、河川、田畑なども堆積物に覆われるなど損害は大きく、長年培ってきた信頼関係も失うことになります。
更には、流失した鉱さいによって、2次的に環境の問題が発生することも損害を拡大させることになります。

維持管理の面では、耐震設計通りにかん止堤が維持されているかを確認することが重要であり、特にかん止堤の浸潤水位を中心に正確な観測を行うことが求められています。

《降雨》

国内の多くのたい積場が建設されてから長年経過しており、雨水を排水する付帯水路も多くは建設当時に設置されたままとなっています。

しかし、近年の線状降水帯による集中豪雨などの影響で、想定される雨量が建設当時より増加傾向にあり、更には水路の老朽化も顕在化しており、たい積場毎に点検する必要があるのではないかと、個人的には感じています。

たい積場毎に設計された降雨が、又は設計以上の降雨がいつ発生するか、地震と同様に来年か5年後か100年後か、誰にもわかりません。
万一、想定以上の降雨が発生した場合、たい積場流域の水量が増加、開水路周辺の地山が崩壊して流木や土砂による水路遮断や暗渠吞口閉塞等が発生し、堤内に溜まった雨水がかん止堤から浸透排水、又は越流によって、堆積物と共に流出するリスクが高まります。
その時には、下流域には《地震》と同様の被害、損害が発生します。

過去には、国内のたい積場被害の原因として、降雨によるものが圧倒的に多いのですが、近年は降雨による被害報告がないことを不思議に感じています。多分、致命的な被害に至らず、今のところ局所的な被害で治まっているからだと推察しますが、リスクとしての認識は必要だと思います。

維持管理の面では、老朽化している水路の健全化は必須ですが、一般的な開渠以外に、人がやっと入れるか入れないかくらいの大きさの管渠や暗渠も多く設置されており、その内部点検や補修は非常に困難であり、今後避けては通れない課題となります。

《環境》

操業中は堆積した鉱さい(スライム)やかん止堤の築堤に利用した鉱さい(サンド)が地表に露出した状態であり、強風などによってたい積場外に飛散するという粉塵問題が発生し、散水などを防止対策としていましたが、現状では既に覆土が行われているたい積場が多くなり、リスクは軽減しています。

一方、かん止堤法尻からの廃水は、低PHや重金属分を含有するなどで排水基準に適合していない場合、水処理を行ってから排水を行う必要があります。
一般的な水処理は、アルカリ沈殿法が用いられ、この時に消石灰などのアルカリと反応した澱物(水酸化物)が発生するため、その処分先として坑内充填やたい積場堤内に堆積することが多いようです。

維持管理の面では、排水基準を遵守するための管理が最優先ですが、近い将来、澱物の処分先の容量が満杯になるため、新たな処分先の確保が必要になるなどの課題があります。
今後は、発生した澱物を単に処分するだけではなく、廃水水質の改善や廃水量の削減により発生澱物を削減したり、澱物そのものの濃度を高める(密度を上げる)など、処分先の容量負荷低減が必要に応じて求められます。

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